コラム

 公開日: 2017-10-01 

何百年か後の大工のことを考えながら仕事をする



「百年も千年も前の大工と毎日のように話をしながら仕事をして、また、何百年か後の

大工のことを考えながら仕事をする。」

藤枝生まれ「技術者の人間国宝」の松浦昭次さんの著書「宮大工千年の手と技」の中の一節です。

写真の本は平成12年に初版が出版されました。当時在籍していたスタッフが買って読んでいて

「会社に置いてみんなで読めるようにしておいたら」の薦めがあって購入したものです。

地元の若い大工さんも手にしています。



昭和4年生まれの松浦昭次さんは藤枝市の青島に住まいがあって、講演依頼のお願いなどで

何度かお邪魔させていただきました。

日本の重要文化財の修復を手掛ける宮大工ということで、緊張してお会いしました。

質素なお住まいで暮らし、気取らずとても気さくな方で描いていたイメージと大きく違っていたことを思い出します。

ほんの一時のご縁でしたがこの夏、嫁さんが新聞に載っていた訃報を見つけ

「宮大工の松浦さんじゃない」と言われた時には悲しく寂しい思いにさせられました。



お会いした際、文化財音痴の私には話す話題もなく、伝統と言えば日本の古民家も同じかななんてノリで

育暮家が移築再生した古民家を紹介したところ、「一度行ってみたいね」と言われました。

「私らには曲がった丸太梁を自由自在に組み合わせて建てる日本の町家や農家住宅はなどは出来ないね」

こんな意味のようなことをおっしゃって、冗談か真実かとせんさくしながらも「そうなんだー」と

何か親しみが増した気がしました。



この2冊の本はとても読みやすく分かりやすいです。

文化財修復の専門書でもなく、伝記でもありません。松浦棟梁が残し伝えたい伝統や経験と思いで綴る

むしろこれからの時代の(家づくりの)「気づき書」のように思えます。

改めて目次から気になるところを拾って読み返すと、私たちには「反省」や「発見」が生まれてきます。

「刃物は、使う時間よりも研いでいる時間の方が長い」・・・

「砥石を見れば、その大工がどれくらいの道具を持っているか、大体のところは見当がつきます。」・・・





のみが置いてある材はプレカット工場にて加工された大井川杉の梁材です。(育暮家の現場から)

大工の手でのみを使ってほぞ穴加工された部材ではありません。

伝統技術を置いてゆくことに後ろめたさを感じているのかも知れません。

工場で機械で加工される骨組みに対し、少しでも手仕事をはさんでみようとしています。





先日の「私の小さな森の家」の建前での休憩時間、

一人の大工さんが「最近、カンナやノミを研ぐのが楽しくなって砥石にもはまってきた」

「時間があれば砥石に向かっているよ」と話していました。

職人の道具は、その道具の手入れや作業の中で先人達が感じた仕事の面白さを伝える力があります。

職人の道具から受ける奥深さに時を超えて魅されるのでしょうか。



一方、家づくりの工法や価値観が変わっていくにつれて、職人が感じる面白さも

これまでと違うところに求めなければならなくなっています。

近年、大工さんの道具はすっかり姿を変えました。量も種類も増えました。

「軽トラ1台分、持ち運ばなければならないんだよ。メンテナンス費用もバカにならない」と大工さんの声。





最新工具によって作業時間は短縮したのですが、工具維持管理に対する大工さんたちの負担も少なくはありません。

時代とともに家づくりの効率(生産性)を高める家づくりの中、作業内容や素材が変わり、それに合わせて道具も進化し変化したものです。道具だけでなく家づくりもライフスタイルなどの変化に合わせていくことは必要だと思います。

ただ、かつて、ほとんどの道具は職人自ら手入れし、心も入れ込むものとした職人像も忘れないでほしいと松浦棟梁に言われてるようです。

そんな中、あの日の休憩時間の大工さんの話がうれしくなりました。



松浦棟梁の家にお邪魔した時、棟梁の手をまじまじ見てしまいました。ここでも描いていた大工さんの手はありませんでした。

力強いと言うよりむしろやさしい手でした。

お話を伺う中で、宮大工の棟梁は歴史家であり技術者でありアーチティストでありコーディネーターであると何度も思いました。

あの手はやさしいけど厳しく、しなやかだけど頑固です。

それは宮大工千年の手と技をつなげていくための手であるからなのでしょうか。





もうすぐ、今年の初めからスタートした古民家リノベーションの現場が終わります。

そこには新旧の道具が駆使され、10人余りの大工さんの手と技を借りました。





明治に建てられ、大正に増築され、家族の手で大事に維持されてきた伝統的古民家は工事を終えます。

そして新しいライフスタイルに応える暖かい家になりました。

10月には小さな古民家サロンを開かせていただきます。

松浦棟梁の本を片手に、この先100年を描くことが出来たらと思います。

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