コラム

2015-06-03

限定承認という手続き

前回のコラムで、遺産分割のやり直しに贈与税がかかってしまうという説明を行いましたが、このような税法特有の考え方をするケースというのは他にもあります。

その一つが、相続における限定承認の取扱いです。

被相続人が遺した財産よりも負債の額が多いかもしれないという時に、相続放棄した方が良いのか、財産・債務を引き継いだ方が良いのか判断をつけられない場合があります。

このような時に、相続開始から3ヶ月以内に相続人全員で「限定承認」の申し出を家庭裁判所に行うことで、相続によって得た財産の範囲内で債務(借金)を承継することが出来るというものです。

つまり、財産を換価(売却して現金に換えること)して債務を弁済することになるのですが、結果として財産が債務よりも多ければ差引額を承継できますので、相続放棄するよりも有利となるわけです。

民事上は、このように非常に便利な制度なのですが、税務上の取扱いを理解して頂いてから判断をしないと、痛い目に会うことになります。

税法における限定承認

限定承認というのは、財産を換価して債務を弁済する手続きですから、税務上は資産を処分した段階に於いて譲渡所得が発生することになります。

ここで、譲渡所得が発生する人は誰になるのだろうかという疑問が沸くと思いますが、実は被相続人つまりお亡くなりになった人が土地を売却したものと看做して所得税の計算を行い、換価額から所得税額を差し引いた残額を債務の弁済に充てるという考えになるのです。

例えば、財産は土地のみで、借入金が900万あったケースを想定してみましょう。

先祖代々の土地を換価したところ、1,000万で売却出来て借入金の返済ができたとしても、税務上は1,000万で売却したとする税額計算を行うと、次のようになります。

  計算式 : (売却額-売却額の5%)×長期譲渡所得の税率15%
         (1,000万-1,000万×5%)×15%=1,425,000円

  土地売却後の残金
         1,000万-1,425,000円 = 8,575,000円

  借入金返済額   8,575,000円

何と、142万もの税金を納めなければいけなくなってしまい、借入金全額は返済できない状況になりました。

それでは、一旦相続してから土地を売却した場合はどうなるのでしょうか?
この場合には、上記計算のとおり、相続人が1,425,000円の譲渡所得税を納付する必要が出てきます。
更に、900万の負債全額を相続人は返済しなければならなくなりますので、最も取ってはいけない方法であると言えるでしょう。

一番簡単なのは、相続放棄してしまうことです。
相続放棄を行えば、被相続人あるいは相続人が所得税の申告をする必要はありませんし、債務の弁済義務は生じません。

限定承認という手続きを取る前に、相続が発生したらすぐに財産と負債の洗い出しを行って頂き、単純承認(財産・債務を全額引き継ぐ)するのか、相続放棄するのかの二者択一で判断するようにしましょう。

限定承認は、民事上は便利な手続きですが、税務上はこのようにこの上なく面倒な手続きとなってしまうのです。

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